LOGIN「それじゃ~行ってくるよ」
ユウヤは軽やかな足取りで椅子から立ち上がり、応接室の扉へと手をかけた。
「は、はい……お気を付けて……行ってらっしゃいませ!」
背中越しに聞こえてきたニーナの声は、少し震えていたが、確かなぬくもりを伴ってユウヤを送り出してくれた。
ギルドを後にしたユウヤは、山を抜ける冷たい風の感触を肌に感じながら、目指すべき孤立した村へと一歩を踏み出した。
ギルドを後にしようと振り返ると、ニーナが扉の陰から控えめに、けれど名残惜しそうに小さく手を振っていた。その愛らしい仕草に一度だけ頷き返し、ユウヤはそのまま村へと直行することにした。
話によれば、目的地は馬車で二日は掛かる険しい場所らしい。そんなに時間を掛けてはいられない。村が孤立しているのなら、一刻を争うはずだ。
ユウヤは街の喧騒から少し離れたところで足を止め、背後に潜む微かな違和感へと意識を向けた。ずっと自分を追っている、隠密特有の張り詰めた気配。
伝言を頼むため、ユウヤは迷いなくその気配の方へと歩み寄った。すると、茂みの奥から影が飛び出し、狼狽しきった様子で姿を現した。
「へ?……は? え? なぜ……分かったのですかっ?」
隠密の者は、信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開き、数歩後ずさった。その額からは、隠しきれない冷や汗が流れている。
「ん~なんとなく」
「そんな……今まで一度も、誰にも気付かれることは無かったのに……」
彼は魂が抜けたような顔で、自身の腕の未熟さを嘆くように項垂れた。
そんな話はどうでもいいんだけどな。悪いけど、今の俺からすれば気配がバレバレなのだ。研ぎ澄まされた五感は、周囲の空気の僅かな揺らぎさえも逃さない。
「それよりさ、二、三日帰れなくなると思うって伝えてくれるかな? ギルドの依頼でさ。詳しくは俺がここで説明をするより、ギルドに聞いてくれたほうが間違いないから。それに、伝言を伝えずに追ってきて、依頼主であるミリアを心配させちゃダメだよ。じゃあ」
ユウヤは穏やかながらも有無を言わせぬ口調でそう言い残すと、隠密の見張りが返事をする間もなく、地を蹴った。
残された見張りは、呆然とユウヤの後ろ姿を見つめることしかできなかった。伝言を伝えるべきか、ミリア様の指示通り監視を継続すべきか……。だが、隠密としての任務は既に発覚した時点で失敗している。何より、目の前で風のように遠ざかっていく背中は、常人の域を遥かに超えていた。
あのスピードに追いつけるはずがない。今ここで無理に追っても、ただ置いていかれ、無駄に時間を浪費して戻ってくる羽目になるだろう。彼は自身の無力さを噛みしめながら、ユウヤの言葉通り伝言を伝えるべく王城へと引き返した。
さ~て……急いで向かうかな。
街道を大きく外れ、ユウヤは最短距離を真っ直ぐに突き進んだ。切り立った崖を跳び越え、鬱蒼と茂る原生林を影のように通り抜ける。肺に吸い込む空気は次第に冷たく澄んだものへと変わり、夜の帳が下りる頃には、既に全行程の半分以上を走破していた。
夜の山は静寂と獣の気配に包まれている。ユウヤは適当な広場を見つけると、物理と魔法の両面を防ぐ強力なバリアを展開した。その内側に手際よくテントを設営し、焚き火の爆ぜる音を子守唄代わりに仮眠を取る。
翌朝、朝露が草花を濡らす早朝に出発すると、昼前には目的地の村が望める峠にまで辿り着いた。
前方に見えるのは、重苦しい沈黙に包まれた村の全景だ。周囲の森からは、不気味な魔力の脈動が絶え間なく伝わってきていた。
峠の頂から見下ろした光景に、ユウヤは思わず眉を潜めた。
「うわぁ……不気味な山……なにこの黒い霧は?」
眼下に広がるのは、陽光を拒絶するようにどんよりと停滞する、墨を流したような黒い霧だった。不気味すぎるでしょ……何かのモンスターが出してる霧なのか? 自然に黒い霧なんて発生するわけ無いし。だとしたら毒、麻痺の霧とか? 警戒して進まないとな。
ユウヤは慎重に足を進め、その霧の端に指先を触れさせてみる。ひんやりとした粘りつくような感触が肌を撫でたが、体には異常は出なかった。どうやら即死するような猛毒ではないようだが、視界を奪う闇は精神を削り取ってくるような嫌な気配を孕んでいる。
意を決して霧の中へと深く踏み込む。すると、静寂を切り裂くような低いうなり声が、周囲の岩陰から響き渡った。
突如として、霧の中からデカいオオカミのようなモンスターが六匹、包囲するように群れで現れた。
うわっ……気配が全く感じなくてビックリした。犬というよりオオカミっぽくて強そうじゃん? しかも全員デカいし期待できるかも。
その巨躯は牛ほどもあり、瞳には凍てつくような殺意が宿っている。ユウヤは腰の剣をすらりと抜き放つと、刀身に薄く、だが強固なバリアを纏わせた。白銀の魔力が剣を包み込み、耐久性と斬れ味が極限まで向上していく。
「さて、どのワンコから遊んであげようかな……」
♢帝都への旅路と予期せぬ吉報「それじゃ、帝都に向かうか……」 俺がリビングの静寂を破るようにそう告げると、向かいのソファに深く腰掛けていたシャルが、驚きと緊張がないまぜになった表情を見せた。淡いピンク色のドレスをふわりと広げ、お気に入りの場所に座る彼女は、いつもなら明るく元気な笑顔を振りまいているのだが、今はその淡いフワッとした金髪を揺らし、不安げに俺を見つめている。「て、帝都ですかぁ……?」「ん? シャルも緊張するのか?」「はい。帝都ですよ……宮殿ですよ? わたし……宮殿は苦手です」 シャルは甘えるように体を縮め、ぶるぶると小刻みに震わせた。同じ王族という立場でありながら、少しドジっ子で自由奔放な彼女にとって、他国の、それも厳格な礼式が重んじられる帝国の宮殿は、想像するだけで息が詰まる場所に違いない。そんなシャルの様子を見て、俺の隣に座っていたミリアが、不満げに頬をぷくっと膨らませた。「なんですの……その宮殿は凶悪というイメージは……そんな恐ろしい場所では、ありませんわっ」 ミリアはますます頬を膨らませ、透き通るような青い瞳を尖らせて反論した。淡い金髪が、彼女の憤りに合わせてふわりと揺れる。 ああ、なんとなく分かる気がする。それって宮殿じゃなくても同じだろう。実際、数人の王様が殺されかけてたしな……。「ユウヤ様。宮殿は、そんなに恐ろしいところではありませんからねっ!」 隣に座るミリアが、俺の腕をきゅっと抱きしめ、顔を覗き込むようにして必死に訴えかけてきた。彼女にとって、そこはただの温かな実家なのだ。 これだけ長く一緒に行動しているんだ、ミリアが大切に思っている場所がどんなところか、何となくは理解しているつもりだ。それにシャルだって、もう俺の嫁になっているんだし、俺が守るんだから安全性に問題はないだろう。 あ、でも……シャルはなぁ。
「お前! 一体何をしたんだ? 俺のファイアボールを受けて無事でいるとは……」 リーダー格の男は、宙に浮いたまま顔を引きつらせ、震える指先をこちらに向けて叫んだ。「もしかして……今のが攻撃だったのか?」 俺が心底不思議そうに問い返すと、男は屈辱に顔を赤く染め、必死に虚勢を張る。「うるさいぞ! そろそろ……師匠が来てくれる……。師匠の攻撃を受けてみれば、俺たちの凄さが嫌というほど分かるさ!」 師匠、か。このレベルの「浮いているだけ」の連中を育てた奴がどんなものか、逆に興味が湧いてくる。「どうした? 俺を待っているのか? 良い獲物でも見つけてきたのか?」 路地の奥から、低くよく通る声が響いた。現れたのは、中年の魔術師風の格好をした男だった。手にしているのは、一際大きな魔石が埋め込まれた不気味な杖。その出で立ちは確かにそれらしく見えるが、男が放つ言葉は、到底高潔な魔導士のそれではない。「……こいつが師匠と呼ばれる男か」 師匠と呼ばれるくらいだから、弟子たちよりはマシな実力があるのだろう。だが、「良い獲物」という言葉からは、彼らが日常的に通行人を襲い、略奪を繰り返している事実が透けて見える。 俺の隣で、ミリアが嫌悪感を隠そうともせず、透き通るような青い瞳を冷たく細めた。「ユウヤ様、あの方からは非常に下品な臭いがいたしますわ。このような者が街を闊歩しているなんて、教育の必要がありそうですわね」 ミリアの静かな怒りが再燃し始めるのを感じながら、俺は新しく現れた「師匠」とやらの力量を測るべく、静かに身構えた。「師匠! こいつら、俺たちの魔法が効きません! 普通の奴じゃないです!」 弟子たちが必死に訴えかけるが、その間も彼らはぷかぷかと中途半端に浮いたままだ。見れば見るほど、その姿は滑稽でしかない。浮いていると踏ん張りが利かないから、一撃受ければ木の葉のように吹っ飛ぶだろうし、何よりそのドヤ顔が…&hell
その光景を眺めていた騎士団長が、憑き物が落ちたような表情で俺に向き直った。「この騎士団はあなたのおかげで、今日を境に良い方向へ向かいそうだ。ありがとう!」 騎士団長は、今日何度目かになる深い一礼を俺に捧げた。その後、彼は生き残った団員たち全員に聞こえるように、朗々とした声で宣言した。これからは門地や階級に関わらず、等しく実力と規律によって評価し、上級貴族であっても例外は認めないと。 静まり返った戦場に、かつての腐敗した空気を切り裂くような、新しい騎士団の胎動が響いていた。♢ミリアとの遭遇 王城へ無事に帰還した後、騎士団は血相を変えて国王への報告へと向かっていった。重々しい空気の隊列を見送りながら、俺は人混みに紛れてこっそりと抜け出した。せっかく訪れた初めての街だ。このまま堅苦しい城の中に閉じこもっているなんて、俺の性分には合わない。 鼻歌混じりに城壁の出入り口へと足を向けると、そこにはなぜか、見慣れた装備に身を包んだ護衛の集団が整然と待ち構えていた。「ユウヤ様、どちらへ?」 鈴を転がすような、それでいてどこか逃げ場を許さない響きを含んだ可愛い声が鼓膜を叩く。あ……このタイミング、この声。バレたか。「あ~、当然……初めての街だし、少しばかり散策をしようと思って」 俺は冷や汗を拭いながら、努めて自然な笑顔で振り返った。「へえ~そうですか。わたしを置いて、ですか?」 武装した護衛たちの間を割って、可愛らしく頬をぷっくりと膨らませたミリアが姿を現した。腰に手を当て、ジト目で見つめてくる彼女の背後には、まるで「逃がしませんよ」と言わんばかりの威圧感が漂っている。 騎士団の精鋭たちを黙らせた俺の足取りも、彼女のこの表情の前では、たった一歩も前に進めることはできなかった。「ひどいですっ。ユウヤ様! 最近いつも置いてかれて寂しいですっ」 ミリアは上目遣いに俺を睨みながら、いっそう頬を膨らませた。その仕草には年相応の幼さと、隠しきれない独占欲が滲んでいる。「
極限まで抑えたつもりだったが、それでも俺の瞳の奥に宿る「捕食者」の光を隠すことはできなかったらしい。 副団長の顔からは一瞬で血の気が失せ、土気色へと変わった。ガチガチと歯の根が合わない音が聞こえ、彼は支えを失った人形のように、その場に腰を抜かして座り込んだ。 俺を見上げる彼の瞳は、もはや人間を見ているものではない。深淵の底から這い出してきたバケモノを正視してしまったかのように、ただ絶望的な恐怖に支配され、激しく震え続けていた。「おいおい……お前は上級貴族様なんだろ? 下級貴族でもない、ただの元平民のゴミ以下の奴の前に座り込んで、いったい何をしてるんだ? その首でも、俺に差し出す気になったのか?」 俺は、無造作に剣を鞘から引き抜いた。キィィン、と硬質な金属音が戦場に響き、その切っ先を、腰を抜かして震える副団長の鼻先へと突き立てる。剣に宿る冷徹な殺気が、男の頬をかすめる。彼は喉を鳴らし、あまりの恐怖に瞬きすら忘れたまま、ただ銀色に輝く死の象徴を凝視していた。「いえ……その、こだわりは……捨て去ります……。心を入れ替え、現場では差別なく接するようにいたします……」 副団長は、震える声で絞り出した。その瞳からは、先ほどまでの傲慢な輝きは完全に消え失せ、代わりに深い悔悟と、それ以上に強い生存本能が支配していた。「だそうだな、その方が賢明だと思うがな。なあ? 団長も聞いたろ?」 俺は剣先を突きつけたまま、横に立つ騎士団長へと視線を投げかけた。俺の放つ冷ややかな圧迫感に、歴戦の猛者であるはずの団長もわずかに頬をこわばらせ、額に一筋の汗を流している。「あ、ああ……聞いた。そろそろ剣を収めてくれないだろうか……副団長が怯えている」 騎士団長の声には、懇願に近い響きが混じっていた。俺はふん、と鼻で笑うと、吸い込まれるような滑らかさで剣を鞘に収めた。カチリ、という静かな音が戦場に響くと、張り詰めていた空気がわずかに緩む。
「へえ……。万全なら、俺に勝てるってわけだ? 面白いな、それ……」 俺は冷笑を浮かべ、男の目の前に転がっている、先ほど叩き折った剣の残骸を爪先で小突いた。♢副団長への「再教育」「そう言うと思って、治癒薬を用意してある」 俺は懐から小瓶を取り出し、男の目の前に放り投げた。乾いた音を立てて転がったそれを、男は震える手で、泥にまみれながら拾い上げる。「そ、そうか……」「その馬鹿に一つ忠告しておいてやる。上級貴族であろうが、現場に出れば下級貴族でも上官であれば、上官に従わなければ、今回の様にモンスターにボコボコにされて死ぬことになるぞ」 突き放すような俺の言葉に、男は顔を歪め、治癒薬の栓を抜こうと指先を震わせた。「ああ……あのモンスターを倒した者に戦いを挑むなんてどうかしていた……下級貴族にひどい言われようで頭に来てしまった……クソッ!! 敵と戦い死ぬのではなく、こんなことで俺は死ぬのか……」 男は呪詛を吐くように呟く。逃げ道を失い、追い詰められ、その横顔には今更ながらに自身の招いた事態の重さが影を落としている。それでも、自分が否定された屈辱だけは拭いきれないのか、瞳の奥には昏い逆恨みの色が燻っていた。 男が覚悟を決めたように治癒薬を飲み干すと、薬液が喉を通り抜ける。即効性の極上品だったそれは、瞬時にして傷口を塞ぎ、折れた骨を繋ぎ合わせ、青ざめていた肌に生気を戻していく。 数秒前まで死を待つのみだった体が、元通りに回復した。 俺は地面を蹴るようにして立ち上がる男を見据え、抜き放った剣の重みを掌に感じていた。さあ、言い訳はすべて潰した。万全の状態で、絶望を味あわせてやるとしよう。「おおお! 体が軽く、傷も……治っている!」 男は自らの両手を見つめ、信じられないといった様子で何度も握りしめた。鎧の下でひしゃげていた肋骨も
階級社会において、相手の背景を読み違えることは死を意味する。この男は今、その自覚もないまま、自ら破滅の引き金に指をかけていた。「ゴミ、ね……。そのゴミに守られないと、全滅してたのはどこのどいつだったかな」 俺はため息混じりに、わずかに魔力を解放した。足元の小石が震え、空気が重く沈み込む。向けられた剣の先が、男の恐怖を代弁するように小刻みに震え始めた。 血を吐くような怒声を上げて、中隊長と呼ばれた男が躍りかかってきた。騎士団長が顔を強張らせて制止の声を上げるが、逆上した男の耳には届かない。 俺は「収納」から一振りの木刀を取り出した。それ自体は何の変哲もない訓練用だが、表面に高密度のバリアを極薄く、強固に纏わせる。物理的な破壊耐性を限界まで引き上げた木刀は、今やどんな名剣をも粉砕する硬度を持っていた。 直後、戦場に響いたのは鋼を叩き潰す鈍い音だった。一撃、二撃。無造作に振り抜いた木刀が、男の着ていた豪華な装飾鎧を紙細工のようにひしゃげさせていく。必死に振るわれる男の剣を、俺は紙一重でかわすことすらしない。バリアに守られた木刀でそのまま剣を叩き折り、男の胴体、腕、足を容赦なく打ち据えた。 鎧は原形を留めぬほどにぐちゃぐちゃになり、中隊長だった男は、もはや悲鳴を上げる気力もなくふらふらと膝を突く。その顔面は恐怖と苦痛に歪み、先ほどの傲慢さは微塵も残っていない。 俺は手に持っていた木刀を静かに消し、代わりに冷たく光る真剣を握り直した。横たわる男の腕、その関節を狙って剣先を突き立てる。じりじりと、体重をかけて鎧の隙間を抉り、肉へと刺し込んでいった。「自分たちの無能を棚に上げて、本当のことを言われて反省もせずに腹を立て、本当のことを言ってきた者を殺そうとするなんて、責任のある立場の者のすることなのか?」 俺の静かな問いに、男は口から泡を吹きながら首を横に振る。「王国幹部が護衛をつけるような人物に、騎士団で役職に就いている奴が、護衛対象に剣を向けて殺そうとして良いのか? まあ、それはもういいか、どうせお前は死ぬんだしな……。剣を抜き、剣を向けてきた時に殺し合いを
「ミリアに殺意や害意を向けてくる人やモンスターがいると守ってくれるように、魔石に秘密の仕掛けをしてみたんだよ」 ユウヤが少し得意げに明かすと、ミリアは胸元に手を当て、うっとりと頬を染めた。「そうですか……♡ ありがとうございます」「まだ成功したか分からないから……お礼は早いよ」「そのお気持ちだけで、わたくしは十分に嬉しいのですわ」 ミリアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべたが、ユウヤは万が一を考えて彼女の肩をやさしく押し、距離を取らせた。「一応
一方のミリアは、今の言葉の真意を計りかねているのか、不思議そうに首を小さく傾げている。その仕草一つとっても非の打ち所がないほど可愛らしいが、瞳の奥には何か納得がいかないといった様子で、不満げな色がわずかに滲んでいた。 かつて王国を統べる者が座していた重厚な玉座には、今や帝国の皇帝が泰然と腰を下ろしていた。そのすぐ隣には俺、さらにその隣にミリアという並びで座らされることになってしまった。皇帝から放たれる圧倒的な覇気を肌で感じ、俺は生きた心地がしない。この居心地の悪さから逃げ出したくて、隣に座る彼女に小声で耳打ちした。「それよりさ……席を代わってよ」 切実な願いだったが、ミリアは表情を崩
突然、謁見の間の重厚な大扉が左右に跳ね上がるように開かれた。 外から押し寄せる尋常ではない威圧感。二十人ほどの精鋭護衛に囲まれ、堂々とした足取りでこちらへ向かってくるのは、先日、温泉で出会ったあの「おっちゃん」だった。 その姿を認めた瞬間、それまで玉座にいた国王が慌てて端に寄り、床に膝をついて深く頭を下げた。騒いでいた元貴族たちは、まるで氷水を浴びせられたかのように顔を青褪めさせ、広間は耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。 ん? 国王より偉い人って……もしかして皇帝陛下……? ユウヤが驚きに目を見開いていると、男は周囲を圧するような鋭い眼光を元貴族たちに向けた後、ユウヤの前で足を止め
それから三日ほど、何気ない日常の平穏を存分に味わい、ゆっくりして過ごしていた。 だが、その静けさを破るように朝早くから国王の使いが呼びに来た。ユウヤはミリア、シャルロッテと顔を見合わせ、身支度を整えると、三人で再び重厚な石造りの王城へ向かった。 王城の長い廊下を歩く足音が、これからの旅の始まりを予感させるように、静かに、だがはっきりと響き渡っていた。「お呼びして申し訳ないです」 国王は、目の下に薄い隈を作り、苦渋に満ちた表情でユウヤたちを迎え入れた。その声は、以前会った時よりも微かに震えているようだった。「それは良いけど、朝早く呼ぶという事は緊急の要件ですよね?」 ユウヤは、城







