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10話 隠密の戦慄、容易く見破られた絶対の気配

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-25 11:45:33

「それじゃ~行ってくるよ」

 ユウヤは軽やかな足取りで椅子から立ち上がり、応接室の扉へと手をかけた。

「は、はい……お気を付けて……行ってらっしゃいませ!」

 背中越しに聞こえてきたニーナの声は、少し震えていたが、確かなぬくもりを伴ってユウヤを送り出してくれた。

 ギルドを後にしたユウヤは、山を抜ける冷たい風の感触を肌に感じながら、目指すべき孤立した村へと一歩を踏み出した。

 ギルドを後にしようと振り返ると、ニーナが扉の陰から控えめに、けれど名残惜しそうに小さく手を振っていた。その愛らしい仕草に一度だけ頷き返し、ユウヤはそのまま村へと直行することにした。

 話によれば、目的地は馬車で二日は掛かる険しい場所らしい。そんなに時間を掛けてはいられない。村が孤立しているのなら、一刻を争うはずだ。

 ユウヤは街の喧騒から少し離れたところで足を止め、背後に潜む微かな違和感へと意識を向けた。ずっと自分を追っている、隠密特有の張り詰めた気配。

 伝言を頼むため、ユウヤは迷いなくその気配の方へと歩み寄った。すると、茂みの奥から影が飛び出し、狼狽しきった様子で姿を現した。

「へ?……は? え? なぜ……分かったのですかっ?」

 隠密の者は、信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開き、数歩後ずさった。その額からは、隠しきれない冷や汗が流れている。

「ん~なんとなく」

「そんな……今まで一度も、誰にも気付かれることは無かったのに……」

 彼は魂が抜けたような顔で、自身の腕の未熟さを嘆くように項垂れた。

 そんな話はどうでもいいんだけどな。悪いけど、今の俺からすれば気配がバレバレなのだ。研ぎ澄まされた五感は、周囲の空気の僅かな揺らぎさえも逃さない。

「それよりさ、二、三日帰れなくなると思うって伝えてくれるかな? ギルドの依頼でさ。詳しくは俺がここで説明をするより、ギルドに聞いてくれたほうが間違いないから。それに、伝言を伝えずに追ってきて、依頼主であるミリアを心配させちゃダメだよ。じゃあ」

 ユウヤは穏やかながらも有無を言わせぬ口調でそう言い残すと、隠密の見張りが返事をする間もなく、地を蹴った。

 残された見張りは、呆然とユウヤの後ろ姿を見つめることしかできなかった。伝言を伝えるべきか、ミリア様の指示通り監視を継続すべきか……。だが、隠密としての任務は既に発覚した時点で失敗している。何より、目の前で風のように遠ざかっていく背中は、常人の域を遥かに超えていた。

 あのスピードに追いつけるはずがない。今ここで無理に追っても、ただ置いていかれ、無駄に時間を浪費して戻ってくる羽目になるだろう。彼は自身の無力さを噛みしめながら、ユウヤの言葉通り伝言を伝えるべく王城へと引き返した。

 さ~て……急いで向かうかな。

 街道を大きく外れ、ユウヤは最短距離を真っ直ぐに突き進んだ。切り立った崖を跳び越え、鬱蒼と茂る原生林を影のように通り抜ける。肺に吸い込む空気は次第に冷たく澄んだものへと変わり、夜の帳が下りる頃には、既に全行程の半分以上を走破していた。

 夜の山は静寂と獣の気配に包まれている。ユウヤは適当な広場を見つけると、物理と魔法の両面を防ぐ強力なバリアを展開した。その内側に手際よくテントを設営し、焚き火の爆ぜる音を子守唄代わりに仮眠を取る。

 翌朝、朝露が草花を濡らす早朝に出発すると、昼前には目的地の村が望める峠にまで辿り着いた。

 前方に見えるのは、重苦しい沈黙に包まれた村の全景だ。周囲の森からは、不気味な魔力の脈動が絶え間なく伝わってきていた。

 峠の頂から見下ろした光景に、ユウヤは思わず眉を潜めた。

「うわぁ……不気味な山……なにこの黒い霧は?」

 眼下に広がるのは、陽光を拒絶するようにどんよりと停滞する、墨を流したような黒い霧だった。不気味すぎるでしょ……何かのモンスターが出してる霧なのか? 自然に黒い霧なんて発生するわけ無いし。だとしたら毒、麻痺の霧とか? 警戒して進まないとな。

 ユウヤは慎重に足を進め、その霧の端に指先を触れさせてみる。ひんやりとした粘りつくような感触が肌を撫でたが、体には異常は出なかった。どうやら即死するような猛毒ではないようだが、視界を奪う闇は精神を削り取ってくるような嫌な気配を孕んでいる。

 意を決して霧の中へと深く踏み込む。すると、静寂を切り裂くような低いうなり声が、周囲の岩陰から響き渡った。

 突如として、霧の中からデカいオオカミのようなモンスターが六匹、包囲するように群れで現れた。

 うわっ……気配が全く感じなくてビックリした。犬というよりオオカミっぽくて強そうじゃん? しかも全員デカいし期待できるかも。

 その巨躯は牛ほどもあり、瞳には凍てつくような殺意が宿っている。ユウヤは腰の剣をすらりと抜き放つと、刀身に薄く、だが強固なバリアを纏わせた。白銀の魔力が剣を包み込み、耐久性と斬れ味が極限まで向上していく。

「さて、どのワンコから遊んであげようかな……」

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